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債券ストラテジストの罠

債券ストラテジスト(債券アナリストも同じ意味)とは、債券市場専門の調査・分析を行い、投資家の債券投資に対する助言を行う者。小生は、最近の債券ストラテジストの分析にある種の問題を孕んでいると考えている。この点について、BNPパリバ証券チーフストラテジスト島本幸治氏の分析である『米国金融市場の動揺』(フジサンケイビジネスアイ)に5月16日に掲載)および『視点 論点 ドル回復が持つ二面性』(日経金融新聞に5月27日に掲載)を利用し、この問題の解説を試みる。小生はこの問題を“債券ストラテジストの罠”と命名した。


いきなり結論、債券ストラテジストの罠とは

債券ストラテジストは、4月に先立ち2005年度の債券分析を行っているが、年度の長期金利(10年国債最長期物利回り)の下限が1.2%或いは1.3%程度としている者ばかりであった(全てのレポートを見た訳ではない)。2001年3月に量的緩和政策が導入されて以降、債券バブルと呼ばれる1%割れの状況を除くとレンジが概ね1.0%~1.5%であり、量的緩和政策以前のゼロ金利政策時のレンジが概ね1.5%~2.0%であることを考慮すると、量的緩和政策解除懸念が台頭している中、1.0%~2.0%というレンジが妥当と思われる。しかし、その水準は既知のもので、そのまま出すことは如何にも馬鹿っぽい。従って、レンジの下限をカットすることで金利上昇懸念を表現することを意図したと思われる。つまり、予想の段階から金利上昇バイアスを含んでいたと思われる。

長期金利は、4月以降に低下を続け、5月27日時点で1.25%(直近最低水準1.21%)にある。この金利低下を冷静かつ客観的に捉えた分析を行った債券ストラテジストのレポートを見たことがない。現在が金利の下限で年度後半に向けて金利が上昇するだろうであるとか、毎年6月は長期金利が上昇することが多いであるとか、金利上昇を予想するものばかりである。状況が変化していたとしても、レンジを変更するには勇気が必要で、レンジが完全に外れてからレンジ変更を行う債券ストラテジストが大半を占めていると考えている。そのため、レンジ下限に接近(レンジ下限を抜けている人間も一時的なオーバーシュートとすることが多い)した状況においては、自身のシナリオが持続していることを強弁することが多いと思われる。つまり、金利上昇バイアスがさらに強まる可能性が高い。

金利上昇バイアスをかける方法は幾つかあるが、最も基本的なものは先行きの景気回復を訴えることである。債券ストラテジストのコメントの多くは、株式市場のブル派にとって歓迎されるべきものであるが、そこにはある種の罠が存在することを肝に銘じて置いた方が良いだろう。長期金利が1.2%を下回った段階で、いきなり掌を返されて慌てることのないようにしたいものである。


島本氏の米国経済イメージ

小生は島本氏のレポートを見たことはなく(会員にのみ開示で会員になることができないため)、詳しくは冒頭に記載した記事を参照して頂きたいが、簡単にポイントを列挙しておこう。

1.ドルの過剰流動性がリスク資産の上昇に寄与して来た
2.米国でのインフレ懸念台頭でグリーンスパンは政策金利の中立化を行った
3.これに伴いリスク資産から安全資産への質への逃避が発生
4.GMに代表されるように、足許の逆風は、米国企業の体質完全を促す
5.一時的な混乱はあるが、今後は次第に世界経済の悲観論が後退する可能性が高い

ということであろう。文末の新陳代謝ということで、日本における量的緩和解除の方向性を明示しており、前段で小生が指摘したような、金利上昇方向のシナリオとなっていると思われる。


小生が注目する米国経済のポイント ~米国長期金利の低下~

米国経済を語る上で最も重要なことは、米国長期金利の低下と考えている。多額の財政赤字を抱えながら、またインフレ懸念に伴う金融政策変更で政策金利は合計2%上昇したにも関わらず、長期金利はほとんど上昇していない。ここ数ヶ月間は逆に低下傾向となっており、その様はグリーンスパンFRB議長が2月に“謎”と評した。この点に関する分析が甘いように感ずる。

短期の政策金利と長期金利は極めて連動性が高いため、政策金利の上昇=長期金利の上昇と考え価値である。しかし、金利は期待インフレ率の市場評価という面を失念しているのではないか。短期の期待インフレ率と長期の期待インフレ率の変化が短期金利と長期金利にそれぞれ連動する。現状、短期金利と長期金利のトレンドが不一致であるのは短期の期待インフレ率と長期の期待インフレ率のトレンドが不一致であることが理由と考えている。

短期の期待インフレ率は、原油価格の上昇に伴うエネルギー価格の上昇を含む消費者物価指数の総合指数をイメージすると良いだろう。また、長期の期待インフレ率は、エネルギーと食料を除くコア指数をイメージすると良いだろう。原油価格の上昇で総合指数が上昇を続けており、これに伴い政策金利が上昇している。これに対して、コア指数は今後も現状水準から上昇することがないという読みをしていることになる。つまり、原油価格上昇が他に波及することがないと見ており、これは以下のような理由と考えている。

1.中国等新興国台頭で工賃の下落圧力が持続し、価格転嫁が抑制される
2.米国経済が減速傾向にあり、需要の減退で価格上昇が抑制される
3.グリーンスパン議長がインフレとの戦いに勝利した

1については既知のことで異論がないだろうが、2や3については異論を挟む余地が充分にだるだろう。ただ、2や3の可能性が高まっていることが米国長期金利に反映されていることは確かである。市場が間違えることも多いが、それが妥当とする幾つかの証拠に対して目を背けるべきではないだろう。


小生が注目する米国経済のポイント ~米国政策金利の中立的な水準~

次に重要なこととして、米国政策金利の中立的な水準に対する考察がある。

島本氏は『FRBはITバブル崩壊時にデフレの危機が迫ると、日本と同じ轍(てつ)は踏むまいと、2001年から大胆な金融緩和策を実施した。その後、金融システムのみならず2003年の大統領選挙への配慮もあり、2年以上も実質FF金利をゼロ近傍からマイナスに据え置いた』としている。小生が考える元々緩和理由が彼とは異なる。FRBを緩和に駆り立てた理由は、テロとの戦いであったと考えている。

2001年9月11日にNY同時多発テロ。2001年10月にアフガニスタン空爆、2003年3月にイラク戦争勃発と、米国のテロとの戦いに対する側面支援として緩和が実施されたと考えている。これが一服した2004年6月から引き締めに転じていることからもそれが判る。米国政策金利の中立化は、2001年9月以前の実質金利に戻すことではないか。

実質金利を計算する上で消費者物価指数で総合指数を使用するかコア指数を使用するかで異なる。米国の引き締めが持続するとする人は総合指数で見るべきと考えており、逆に打ち止めるべき人はコア指数で見るべきと考えているとすれば、判りやすいであろう。小生は後者派である。米国は財政赤字削減を行っていく必要があり、景気を減速させることへの配慮が欠かせず、単にインフレを沈静化すれば良いとの中央銀行の論理のみで金融政策を推し進めることはないと考えているからだ。総合指数ベースでの中立金利を目指す場合にも、景況感の悪化から将来の金融緩和をイメージできる状況に至ると考えられ、現状の長期金利低下にそれ程違和感は感じていない。

日本においても財政赤字との戦いが控えている。この景気への悪影響を軽視している債券ストラテジストが多いように思う。米国金融当局が景気への配慮を行うか否かが早ければ6月30日に判る。その状況を確認してからレンジを変えるとするならば、プロ失格の謗りは免れないのではないか。


今回は長文であったため、8割方記載したところでミスタッチで前の画面に戻るを選択してしまい、全部消えてしまいました。ワードを利用して書き直したため、随分と時間がかかりました。文中の島本氏は小生の推定5倍以上のサラリーを得ていると思われ、小生の目標は島本氏の論の5分の1以上の妥当性を兼ね備えている事と致しました。結果の判断は読者に委ねたいと思いますので、感想を記載して頂けるとうれしく思います。

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米景気プロの見方、セミプロの見方、素人の見方

米国景気について、僭越ながらプロの見方なるものを披露しようと思う。例として妥当かどうかは不明であるが、ISM製造業指数を取り上げよう。

ISM製造業指数について、何も知らないの素人は、新聞に記載された記事等で、昨夜発表になったISM製造業指数はどうやら米国景気の堅調さを示しているらしい、或いは米国景気の減速をしめしているらしいと知る。それを受けて、素直に買ったり、売ったりする。

ISM製造業指数について、結構知っているセミ・プロは、同数字が50を越えれば景気が堅調で、同じく50を下回れば景気減速であることを知っている。同指数が一昨年来ずっと、50を越えており、最近、50に近づいていることを知っている。同数字が50を割れたことを知り、先行き懸念から株を売りに回る。

ISM製造業指数について、そうとう良く知っているプロは、当該数字の予想をする。6月1日に発表される5月ISM製造業指数を、同指数のヒストリカルデータと、既に5月分まで発表されているNY連銀製造業指数とふぃらでるぎふぃあ連銀製造業指数から推定する。小生が推定した所、同数字は50.2となった。これに対して市場コンセンサスは51.9。予想を下回ることと、小生の推定値よりも実績値が下振れする可能性を捕らえると、足許で株を売り立て置く。自信の予想通り或いは予想を下回る数字が出て、セミ・プロや素人が狼狽して売りに来る所をキッチリ買い戻して利益を出す。

前述の数字は当たるも八卦、当たらぬも八卦。それに、株価はISMのみに左右される訳ではなく、この点の調整も必要であるが、知っていて売買するのと知らずに売買するのは違うと考えている。最も知らぬが仏という場合も充分考えられるので要注意。


例によって、週央なので軽いネタで。小生はプロの見方を示しますが、素人の味方です(何だよ!駄洒落かってか)。

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日銀、なお書き変更について

日銀は、5月19日・20日の政策委員会・金融政策決定会合において、決定内容のなお書き部分(文面後半の、”なお”以降の部分)を変更、『また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする』の一文を追加した。

当該事案については、日経新聞などに決定会合開始前にリークされており、また、前週の総裁会見でそのことが指摘しており、市場の反応は限定的というか、無反応に近いものであった。市場関係者やマスコミが大騒ぎした割には、肩透かしを食った格好となっており、この騒動について小生なりの解説を付けようと思う。


なお書きの変更の経済的影響

日銀の文面通りに受け取るならば、経済的な影響は限定的というか、影響なしに近いものであり、その理由は以下の3つに集約できる。一つは、当座預金残高がほんの数日、30兆円を下回りかつ直ぐに回復するように日銀が調節を続けることを約束しており、持続的なものでない。2つ目は、量的緩和の当座預金残高を増加させることについて、『効果がない、或いはほとんど影響を与えない』と多くの専門家が批判してきたように、具体的な効果はなかったと言える。3つ目は、ペイオフ解禁で金融システムの健全性を回復したため、量的緩和はその使命を終え、徐々に後退させるべきと主張する人(木村剛氏、及び決定会合に反対票を投じた審議委員等)が存在するように、影響を受けるべき対象がある面その必要性を後退させている。

本来、事前にリークされており、前述のような内容となることもはっきりしていることから、専門家は『今回の変更で特に経済的な影響はなく、市場(株式市場、債券市場共に)が当該材料にネガティブは反応を示した場合には、格好の買場を与えることになるだろう』という主旨の発言をすべきなのではないだろうか。そうしなかった理由は、当該材料をきっかけに従前の市場と異なる市場形成となることを恐れたということか。そうだとするならば、今の市場の専門家は極めて臆病者が多く、市場追随方の分析しかできないということなのだろう。


金融政策のトレンドを重視することの無意味さ

影響が小さいにも関わらず、大騒ぎしている理由は、金融政策が引き締めのトレンドに移行した可能性があることに尽きる。これについては、2つの問題が存在する。1つは、物価が安定的にプラスになるまで現状の金融政策を続けるという約束を、日銀が反故にすること。もう一つは、景況感が悪化している中で、金融引き締めに転ずることが2000年8月のゼロ金利解除のように判断ミスである可能性があること。

前述の理由は2つとも軽視できるものではない。前者はアナウンスメント効果の低下につながり、後者はデフレ払拭を困難にするという面があるためである。しかし、問題は、当座預金残高の目標を守るために新たなオペを導入する等の弊害の多い政策を導入することと、今回の決定とどちらが妥当であるかということではないだろうか。今回の決定で、日銀を批判している人で、より妥当性の高い金融政策を示している人はいない。金融政策で理想を追求することは重要であるが、現実に立ち妥当な判断をすることも重要ではなかろうか。

今回の騒動で一つだけはっきりしたことがある。量的緩和解除は来年3月で導入から丸5年を迎える。これを解除するためのハードルは極めて高いことがはっきりした。本来、消費者物価指数がプラスになってから議論されるべき、量的緩和解除を事前に出口政策として議論し始めたことに問題があるように感ずる。4月に発表された展望レポートによると来年度に物価上昇率がプラスになるという見通しを行っている。日銀が行うべきは、これが妥当であることを証明することと、コミットメントの物価上昇率が安定的にプラスになるという部分の透明性を増すことではないだろうか。機動的な金融政策導入という面からは、曖昧さを残す方が良いのだが、今回判ったハードルの高さから、量的緩和解除においてのみはその図を明確に示すべきなのではないか。


市場への影響、当座預金残高目標引き下げには反対

冒頭に今回の決定は経済的な影響がほとんどないことを記載したが、市場への影響がないかを検証してみる。2月28日に福井日銀総裁が、長期金利の低位安定を危惧する発言をして以降、金融機関は量的緩和解除に対してナーバスになっている。20日に発表された投資家別債券売買動向(日本証券業協会)によると、都銀長信銀が今4月に14兆円超のTB・FBを購入していることが判明した。同水準は過去最大であり、行き場をなくした資金が結局、短期市場に滞留している様を如実に示している。都銀長信銀は営利企業であるため、これらを有効に運用すべきであるが、その行き先が手詰まりとなっている。貸し出しが伸びる訳ではなく、量的緩和解除警戒から債券での運用も増やせられないことに起因しているが、新たな運用先が見出せていないことが問題であろう。このため、短期運用資金がジャブジャブ状態になるため、短期資金調達ニーズも減少し、日銀の当座預金残高維持を厳しくしている面がある。

日銀としては、短期資金ニーズの減少を取り込み、当座預金残高維持を厳しくし、行く行くは当座預金残高目標事態を圧縮させることを意図しているのかもしれないが、小生はその方向に2つの危惧を感じている。長期金利のの上振れリスクとクレジット・スプレッドの拡大である。

長期金利の上振れリスクは、国債発行額がこれから2008年に向かって前年比で急激に増加していく中で、徐々に増大してくる。量的緩和政策の新たな効果として、これを抑える効果があることは以前に指摘している。当然のことであるが、当座預金残高が下落に伴いこのリスクは増大する。この点がデフレ払拭にネガティブに反応しないか気掛かりである。

もう一つ、クレジット・スプレッドについてであるが、GM問題で動揺している状況というタイミングの悪さはあるものの、こちらについては心配していない。米国においてGM問題でクレジット・スプレッド拡大が問題となっているが、金融緩和で行き場をなくした資金が社債市場に流れ込み、GMで言えば足許の格下げ以前の格下げにおいては、クレジット・スプレッドを拡大させることなく縮小させてきた。この反動が出ている面がある。日本においても長期の量的緩和で同様のクレジット・スプレッドの縮小問題があり、その反動が危惧されるため、配慮すべきという面がある。

尚、小生はクレジット・スプレッドへの配慮が前述の長期金利の上昇リスクを上回るとは考えていない。従って、現在は当座預金残高を引き下げることには妥当性がないと考えている。この点を踏まえ、前回あるいは今回の決定会合議事要旨で、今回の決定に反対票を投じた審議委員の意見が妥当であるかどうか検証したいと考えている。


今テーマはそれ程、深みや広がりのないもので、正直纏まりに欠ける内容だと思います。量的緩和解除については長期の研究テーマとなっておりますので、今後も事ある毎に取り上げたいと考えています。
方向感に欠け、フラストの溜まる市場環境が続きそうですが、読者の方々が壮健な売買を繰り返して頂けることを祈っております。では。

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米国長期金利3%の世界とは?

ビル・グロスの最新のコメント(英語が判る方はこちらへ)によると、米国長期金利(10年国債利回り)が2010年までの5年間に3%に低下する可能性を指摘している。米国長期金利は現在4.1%絡みで、これが3%台に下落するだけでもとんでもない。ビル・グロスのコメントを読む為の英語力が欠如しているのか、未来を思い描く想像力が欠如しているのか、米国長期金利が3%に下落するイメージが全く湧かない。

以前紹介したMスタンレーのFF金利5.5%に上昇する方はイメージできる。恐らく市場の多くもそうだろう。にも拘らず、2月中旬にグリーンスパンFRB議長が謎と評した長期金利の低水準での安定がその後も持続している。市場関係者の多くは米国の経済において、決定的な材料を見逃しているのかもしれない、という気持ちにさせられている。

そういう状況であるからこそ、誰もが思いつかないような極端な金利低下の可能性を指摘したのであろう。小生は、ビル・グロスというおっさんに、当面、かないそうにもない。


米国経済再検討

最近の米国経済指標は景気減速を示す数字が多い。5月NY連銀製造業指数が▲11.1(景気の分かれ目±0)、5月フィラデルフィア製造業指数+7.3(前月25.3)と足許の景況感の悪化を示している。一方、物価も安定を取り戻しつつあるように見える。4月消費者物価指数のコアベース(食料・エネルギーを除く)は前月比±0.0%であったことに加え、原油価格が在庫増を背景に46ドル台から下落。為替のドル安傾向も一服している。

これらは何かの変化を示しているように感ずる。グリーンスパンFTB議長は、20日、中立のFF金利について、「その水準に達するまで、その水準を知ることはできない。見過ごす可能性もある」と語ったそうだ。次回6月30日のFOMCで利上げすることが確実視されているが、この言葉は景気減速が明確になるまで利上げを続けるという決意表明なのか、既に景気減速することを確信しつつも物価安定のために利上げを打ち止めできないジレンマなのか推し量ることはできない。

ただ、景気減速感を無視して、FRBがインフレ退治のみに執着し、利上げを持続した場合、今ビル・グロスが頭に描いているビジョンを、数ヵ月後に我々も見ることになるのかもしれない。

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記者に捧ぐGDPの見方

日本経済新聞に“やさしい経済教室”という囲み記事がある。これは読者を対象とした経済解説で、学者や研究者がその論を紹介するスペースとなっている。これに対し『記者に捧ぐ』シリーズは、読者が新聞記者を対象にやさしく経済を解説してあげようと、試みるもの。初回として17日発表の1-3月期GDPを取り上げる。


ヘッドラインとなる実質GDP前期比年率について

四半期GDPを示すものとして、前期比、前期比年率、及び前年同期比の3種類がある。成長率や項目別には前期比と前期比年率を示し、デフレーターには前年同期比で報道されることが多い。報道においてこの点がバラバラであることが多く、非常に判り難い。まずこの点を改めることで見えてくることがあるように思うため、今回の数字についてそれぞれを簡単に列挙してみる。

______________実質成長率 _名目成長率 _デフレーター
__<前__期__比> +1.3%___ +0.6%_____( ▲4.2%)
__<前期比年率> +5.3%____+2.3%_____(▲15.9%)
__<前年同期比> +1.2%____+0.0%______▲1.2%
_(前期前年同期比 +0.6%_____+0.3%_____▲0.4%)
※ デフレーターの前期比及び前期比年率の数字は小生の計算で季節調整は行っていない

上記の3項目の関係を示す数式として、実質成長率=名目成長率÷デフレーターの関係が成り立つことが知られている。本来であれば三つの数字が揃う前年同期比の数字で比較するべきで、これによると2004年1-3月→2005年1-3月の名目成長率はゼロ%であったという数字が出てくる。

新聞記者はインパクトのある数字を使いたがる傾向があり、どうしてもプラス或いはマイナスの数字が大きい前期比年率の数字を使いたがる。しかし、それは振れが大きく見せることはできるがトレンドとして経済情勢がどうなっているかを知ることはできない。従って、同時に前年同期比の数字を抑えることにすれば、成長率を趨勢で捕らえることができるためである。前年同期比の前期の数字と比較すると、1-3月の前期比及び前期比年率の実質成長率の数字が上振れした理由の大半がデフレーターのマイナス乖離拡大の影響であったとすることができる。尚、一部でデフレーターのマイナス乖離拡大を、デフレの深刻化と騒いでいたが、これは間違い。
 GDPデフレーターの最近の推移
 2004年1-3月期  ▲1.2
 2004年4-6月期  ▲1.8
 2004年7-9月期  ▲1.3
 2004年10-12月期 ▲0.4
 2005年1-3月期 ▲1.2
上記で一目瞭然であろうが、10-12月のマイナス幅縮小が一時的であったと言える。その時は公務員賞与が前年減少の反動で上昇したことと生鮮食品の価格上昇等が影響するという特殊要因があった。これら特殊要因が剥落したため、元に戻ったということである。読者をミスリードしないように心掛けて置きたい点であろう。


GDPで問題となる先行きの考察

先行きの考察のためには、項目別の状況を把握することが必要となる。寄与度を中心に把握することが理解を深めるであろう。

内需寄与度+1,4%・外需寄与度▲0.1%(今期の成長は、内需主導であったことが判る)

内需の中身について、民間寄与度+1.3%・公的寄与度+0.0%(ここの所の傾向通り、民間主導。公的寄与度が上昇することは今後もないだろう)

民間需要の中身(何れも寄与度)について、個人消費+0.7%・住宅▲0.0・設備投資+0.3%・在庫品増加+0.4%(個人消費、設備投資が堅調で、在庫増も寄与していたことが判る)

<今後の懸念>
・個人消費については、1-3月の反動でマイナスになることも考えられる
・個人消費については、税・社会保険料負担増での可処分所得減少が影響する可能性
・個人消費については、株価低迷で逆資産効果が出る可能性
・設備投資については、2005年度計画が前年度を下回るもので、減少が考えられる
・在庫品増加については、当然反動が出るだろう
・米国景気減速傾向は外需低迷を持続させる可能性がある

<今後の好材料>
・夏の賞与の増加するとの報道があり、7-9月個人消費は期待できそう
・住宅の減少は都内のマンション土地確保が進まなくなったためで、土地価格上昇期待の裏返し
・為替の円安傾向で、外需が伸びそう
・為替の円安傾向が持続すれば、収益計画更には設備投資計画の上方修正が期待できる

概ね、上記の項目について、4月以降の経済指標を注視し、その都度、景気回復が前倒しとなっているか、後ずれしているかを総合的に判断して行けば良い。今の所発表されている経済指標では、景気回復が後ずれしたのではないかとの指摘をする人が多い。しかし、小生は鍵は為替水準にあると考えており、現状の107台で為替が推移するならば、景気回復が前倒しになると注目している。


最近BLOGによる新聞批判或いは既存メディアへの批判を良く目にする。批判するだけならば誰でもでき、率先模範を示すべきだと小生は考えている。その上で批判すべきではないか。そのためにBLOGを最大限に活用すべきではないか。

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17日GDPで判る向き不向き

5月17日発表の1-3月GDPは実質年率+5.3%(予想+2.3%)と株式市場にとって願ってもない好材料となるはずだった。結果は皆さんご存知の通り、逆に売を呼び込み急落。実はこの日の相場の取り組みで、株式市場の売買に向いた人と不向きの人を判別することができる。転んでも無料では起きないように、以下に記す。


株式市場に向くと考えられる人

小生が株式市場に向くと考える人は以下の何れか。
1.寄から積極的に売り向かい、日経平均で前日比▲100以上下落してからは買い戻しを実施。
2.寄を買から入り、日経平均が前日比マイナスに転じた所でドテン売、損益がチャラになる所で閉じた。
3.一日、相場を見ると決め、終日様子見に徹した。

小生は3。先週末に小生のアドバイスを聞いた人は、1で結構、儲かったと言っていた。残念ながら、2の人は身近にはおらず、前日比マイナスでロス・カットしたという惜しい人がいたのみ。まあ、何れにも該当しなかったからと言ってガッカリすることではない。そういう方は次回からGDPの発表の日には売買を手控えれば良いだけ。相性の合う相場とそうでない相場があるということを知ったでけ良かったというものだろう。


日本人と米国人の相場の取り組みの違い

(以下は小生の先入観であり、例外はあるということで)日本人と米国人では相場の取り組みが違う。日本人は損失に怯える傾向が強いのに対して、米国人は損失を怖がらないことが大きいのであろう。

ここの所の相場で、株式市場は下落しており、マイナスになっている人(まあ、そういう人が多いのだろうが)は買っては投げを繰り返すか、上値で買シコリを形成している。こういう状況の場合、日本人は自分自身の最善のシナリオで相場に取り組む傾向が強く、強い材料が出るとそれに飛び付き、新規或いは追加で買い、損失が取り戻せる位までの上昇を期待する。これに対して米国人は、よく言えば諦めが良いというか、常に客観的と言うか、売と買を均等で見るため、ここの所の下落で買シコリがあることを考慮し、売から入り、特に1万1千円を割れると更なる投げを誘発するということを考え、売りから入る傾向が強いと思われる。勿論、買から入る人間もいるが、前日比マイナスで自身の過ちに気づき直ぐにリカバリーに入る。この辺を農耕民族と狩猟民族の違いと称せられるようだ。

ちなみに、3は純日本人に向いた相場の取り組みと考えている。“石橋を叩いても渡らない慎重さ”。最近、リスクを取ることが良いことだというような風潮があるが、裏付のない自信は単なる過信であり、身を滅ぼす元。


本日は週央につき、この辺でご勘弁。マクロ分析はまた週末をお待ちを!

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株価1万1,500が遠退いた?

日経平均株価指数は、先週の材料で1万1,500に戻すことが遠退いたように感ずる。今週は1-3月GDPが発表され、期待がなくなった訳ではないが、GDP1次速報値の頃が買場であるとの従来パターンに収まった可能性が高いと感じている。


13日発表の3月機械受注は予想比上振れしたが

13日発表の機械受注統計において、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の3月の数字は前月比+1.9%(予想▲1.5%)、4~6月見通しは前期比▲3.1%(1~3月見通し+9.9%に対して実績+0.7%)。ヘッドラインの数字である3月の数字が予想比上振れしたことは好感出来るが、1~3月が見通し比未達になった上で4~6月の見通し数字がマイナスに転ずることは先行きの不安感を示した。当該数字は民間設備投資に6ヶ月程度先行すると言われているが、最近の傾向では先行が2~3ヶ月程度に短縮しているとのこと。これに基づけば、民間設備投資は6月頃までは堅調であるが、7~9月は低迷するということになる。

政府は、当該指標が毎月振れることもあり、「機械受注は持ち直してきている」との基調判断を据え置いた。当該数字は四半期毎に見通し比上振れと未達を交互に繰り返してきており、4~6月は見通し比上振れする番となる。但し、月次で振れるということは6月16日発表予定の4月の数字が下振れする可能性もあるということになる。4月の数字が下振れした場合、4~6月が見通し通りとの思惑が高まり、先行き懸念がより強まる。


ヘッジファンド巨額損失の噂

米国自動車大手2社のGMとFordが業績不振により格下げされたことを受け、ヘッジファンドに巨額損失が発生したのではないかとの噂が流れている。ヘッジファンドの損失は、同社の取引先である米国大手金融機関に損失を発生させる可能性があり、負の連鎖による不安感が台頭している。

ヘッジファンドが損失させたと言われる取引は、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)でのプロテクションの売(債務不履行時に買い方の元本損失を補償する代わりに、買い方からプレミアムを受け取る)を株の空売でヘッジしていたものである。クレジット・スプレッドが拡大したため、CDSのプロテクション売が損失を発生させると同時に、株の空売で利益が挙がらない所か逆にこちらでも損失を発生させている。これらの損失は、一説によるとCDSの額面の3割と言うことであり、レバレッジ(てこの原理)をかけて、少数金額で多額のリスクを負っているケースもありえるため、この噂にある程度信憑性はあるだろう。但し、巷で言われているようなLTCMの破綻(1998年)のような大掛りな損失とはならないだろう。当時の反省もあるだろうし、クレジット・スプレッドが歴史的にタイト水準に縮小している中で、前述の取引をそれ程多額で行っていたとも思えないこともある。

LTCM破綻時は、金融機関への破綻の連鎖が及ぶことを恐れ、政府やFRBが金融市場の動揺を抑えることに腐心した。FOMCでは緊急利下げが行われ、市場は“質への逃避”から株式が売られ、国債が買われた。足許の相場はこの期待感が多少あるのかもしれないが、LTCMのように影響が大きいわけではなく、仮にヘッジファンド破綻があったとしても、緊急利下げまでは行われないだろう。但し、利上げの打ち止め理由にはなり得るだろう。

GM・Ford絡みよりもヘッジファンドには気になることがある。S&Pヘッジファンド指数によると、2005年の運用成績は年率▲3.1%となっている。全体で▲3.1%ということは当然もっとマイナスを被っていて▲10%に達している所もあるだろう。6月の半期決算で▲10%の数字を見せられた投資家の動きはどうだろうか。資金を引上げるのではないだろうか。その場合、ヘッジファンドは資産の縮小に迫られ、買っていたものを売、空売していたものを買い戻す動きを余儀なくされる。その動きはヘッジファンドの運用成績を悪化させ、更に資金を引上げられるという負の連鎖が考えられる。

6月末に向けて、今までヘッジファンドが買っていたものが売られ、売っていたものが買い戻される動きには注意が必要であろう。原油等商品市況へ流れていたが、最近は利食い売が入り、WTI原油先物で一時47ドル台に下落した。円高一辺倒であった円ドルレートも、中国元切り上げ期待の中で逆にドルは106台に戻している。そう言えば日本株も相当量購入していたと思われる。

景気回復の期待感は剥落していないが、日経平均の1万1,500は思ったよりも遠いかもしれない。


通常は週一回の更新なのですが、昨日記載した内容が余り興味の対象ではないのではないかと考え、もう一つ記載いたしました。先週から、アクセス解析できるようになり、自分が想像したよりも遥かに多い方がここをご覧になっていることが判りましたものですから。

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量的緩和解除論

木村剛氏Blogの『日銀は同じ轍を踏むのか?』より、考え方を変えた?と思ったが、中身を見てそうではないことが判った。繰り返し、日銀に早期量的緩和解除を求める従来の主張と何ら変わらなかったからである。小生は“量的緩和解除は慎重に吟味されるべき”との立場を取っている。以下の量的緩和解除論を、木村剛氏を初めとする早期量的緩和論者の方々に捧げよう。


日銀の2つのトラウマ

量的緩和解除に際して、小題の“日銀の2つのトラウマ”に触れなければなるまい。1つは木村剛氏も指摘する1980年代後半に低水準の公定歩合(2.5%、現在の0.1%と比べれば高いが当時としては非常に低水準)を持続さえたこと。今1つは、2000年8月に導入していたゼロ金利政策を解除したこと。これらの2つは相互に関連しながら、現在の日銀の金融政策への制約となっている。まずは、それぞれの説明をすることから始めよう。

日銀の2つのトラウマ①1980年代後半の低金利持続について

1980年代については、木村氏の文面を引用
バブルを必要以上に膨張させる結果となった一因は日銀の引き締め転換が遅れたことにあった。1986年11月に景気は底を打っていたにもかかわらず、2年6ヵ月後の1989年5月まで、日銀は公定歩合引き上げに踏み切れなかった。当時は米独が先に金融引き締めに転ずる中、日本だけが遅れをとった形だったが、今回の局面も米欧は先に金利引き上げに着手していることが興味深い。十数年前と同じ轍を踏まぬ金融政策が求められているのではないだろうか。 』。

当時の状況で不可欠なものとして、円高の進行を語る必要があるだろう。米国の双子の赤字と日本の巨額貿易黒字が問題となり、これを解消するため、1985年のG5でドル安誘導が合意(所謂、プラザ合意)がなされた。これにより、ドル安(円高)の流れが加速した。1986年頃から、日本国内で『円高不況』という囁かれた(余談であるが、当時工学部の小生は、製造業の採用が絞られる中、金融機関への就職に進むこととなった)。日銀の公定歩合を低水準に引き下げられたことは、進行する円高へのクッションとして導入された。その後、行き過ぎたドル安を是正するために、1987年2月にG7(G5+イタリア、フランス)は為替安定の合意(所謂、ルーブル合意)がなされた。ルーブル合意でも、日本にとって不幸な問題があった。その声明文で、『日本政府は、内需の拡大を助け、それにより対外黒字の縮小に寄与するような財政金融政策をとる』(財務省HPより)とされたことを指す。日本が“世界経済のアンカー役”を担わされ、財政拡大と金融緩和を余儀なくされた。自国通貨高の中で、財政拡大を行いながら金融緩和を実施すれば、資産インフレが膨張すること(バブル)は現在では知られている。行き過ぎた資産インフレは、限界を超えると著しい資産の下落を招く危険性があることも同様である。しかし、当時の日銀は、資産インフレが実物経済に悪影響を与えないかということのみに着目されていたと思われる。但し、バブルで膨張した株式市場での低利ファイナンスが膨大な設備投資を生み、生産性の向上から実物経済のインフレに波及しなかったことは不幸なことであった。

現在と当時では絶対的に異なる点がある。財政拡大路線か財政縮小路線の違いであり、この点を踏まえて尚、早期量的緩和解除の必要性があるかに疑問を持っている。少なくとも1980年代よりは時間的な猶予があると考えている。量的緩和政策がこの3月で4年経過したが、日経平均株価指数は底値から上昇に転じてから2年しか経過しておらず、その上昇幅は1980年代後半のそれに遠く及ばない。慌てる乞食は貰いが少ないということになりはしないか?

日銀の2つのトラウマ②2000年8月のゼロ金利解除について

当時、IT企業株の上昇からITバブルと称される状況下にあった。株価上昇下での金融緩和持続が1980年代後半のバブル・イメージと重なり、1999年2月から1年6ヶ月が経過し、1980年代後半の低金利時代の2年6ヶ月に達する前にゼロ金利解除へ至った(ゼロ金利解除時の議事要旨にも記載)。企業の収益が回復する中、家計をサポートする必要があるため、ゼロ金利政策という家計→企業への所得移転を撤回するとの論もあった。但し、このゼロ金利解除は2001年3月に量的緩和に至り、僅か6ヶ月程度で誤りであったことを露呈する結果となったのは、周知の通り。

日銀はゼロ金利解除の時に重要な点を考慮していなかった。当時は円高局面とは呼べない状況下にあった点である。だからこそ、金利を上昇させ、多少円高になったとしても影響を回避できるタイミングと踏んだのであろうが、時間的猶予があり、焦る必要はなかったと考えている。最も、当時は財政拡大路線の只中にあり、それが日銀の判断を誤らせた不幸もあった。

現在の早期量的緩和解除を行うべきか否かは、日銀の2つトラウマのどちらを重視すべきかで語られることが多い。この際に、当時と現在の状況の違いを明確にした上で、客観的に語られる必要がある。足許に近い、ゼロ金利解除時のトラウマを重視していると感じている人が多いかもしれないが、実物経済のインフレも、資産インフレもも過熱していない中での金融政策転換に説得力があるとは思えない。


量的緩和解除を巡る矛盾

早期量的緩和解除において、当座預金残高の引き下げを主張する人間が多いが、日銀の国債買切オペの変更を主張する人間が少ないことに違和感を感じている。30兆~35兆という額に反応しているのであろうが、日銀の国債買切オペも年間14.4兆円(月間1.2兆円)の金融市場への影響も馬鹿にできない。日銀が買切により保有することになった国債の平均年限は4年弱程度である。これにより、長期金利(10年国債利回り)が本来の位置よりも低位になっている疑いがある。当座預金残高は額が多いが所詮は短期の資金供給であり、長期のそれよりも影響は遥かに小さいのではないか。もし、量的緩和解除を行って構わないというころであれば、国債買切オペを減額しても問題ないはずである。

当座預金残高増額或いは日銀国債買切オペ増額は、長期金利の低位安定につながった。長期金利の低位安定は、デフレ化における企業の負債削減の流れから、社債の利回りの低下を促し、特に信用リスク差による国債との利回り格差(所謂、クレジット・スプレッド)の縮小を実現し、金融の税脆弱性をサポートに寄与してきた。クレジット・スプレッドの縮小は主に金融機関の資金繰りを容易にしてきたこともあるが、業績低下で格付が低下した企業の資金コスト上昇も抑えてきた。

米国においても、クレジット・クランチ時等に金利低下で企業の資金コスト上昇を抑える動きをとったことがあるが、国債買切オペのように長期金利に直接働きかけるような政策は実施していない。2年前に米国にデフレ懸念が台頭した時に長期金利低下を促す意見が出されたことがあったが、グリーンスパンFRB議長は導入に一貫して否定的であった。これは、以下の2つの理由があったと思われる。1.米国は市場主義が日本よりも強く、長期金利が下がる必要性がある時には下がり、上がる必要性がある時には上がるため、一時的な逆方向の展開を危惧しない。2.中央銀行が国債を購入する行為は、財政のサポートに関与するものであり、インフレを招くタブーである。米国の状況と日本の状況は異なるため、必ずしも同調する必要がないが、日本人は“所謂、悪い金利上昇”(景気が悪化しているにも拘らず、需給関係悪化による金利上昇)を危惧し過ぎる傾向がある。市場関係者にとっての被害は出るだろうが、この種の金利上昇は持続せず、一時的な現象に終わるものである。レア・ケースで政策の本道を見誤るなということだ。

以前も記載したが、早期に撤回するならば国債買切オペの方であり、当座預金残高ではないと考えている。長期金利の弾力性(ビルトイン・スタビライザー効果)で、ビハインド・ザ・カーブのリスクを回避する方向に転換し、然る後に当座預金残高を減少させて行くという手順の方が合理的である。これに対して、当座預金残高を減少後、マネー供給の減少に伴い国債買切オペを減額して行く方法は、足許での長期金利上昇しないが、先行きの長期金利上昇を促し、かつその幅が大きくなるという典型的な先送りの感は否めない。

国債買切オペには、成長通貨の供給という本来の役目がある。その額にして、購入する銘柄を短期国債か中期国債(2年)にすることが必要と考えている。日銀による長期金利への関与は避けるようにすることであろう。


量的緩和解除(国債買切オペの変更等を含む)には早いのではないか

日銀が国債買切オペを減額等量的緩和解除に動いた場合、長期金利は間違いなく上昇する。その後、デフレ脱却に失敗したならばその責を日銀が負うことになる。何よりも、消費者物価指数が安定的にプラスになるまで量的緩和解除を行わないとのコミットメントを違えることなり、金融政策への信頼感が低下し、今後のアナウンスメント効果減退という副作用を伴うことになる。1980年代後半と異なり、今後の財政は縮小方向であり、時間的な猶予があるため、デフレが完全に払拭されるまで待つべきであろう。

尚、消費者物価指数でデフレ払拭を計る方法は変更した方が良いと思っている。来年に消費者物価指数は2005年基準に改定され、新旧の交代が早い携帯電話や液晶TVが加わる。ヘドニック法による調整で物価が下落方向に寄与する為、何時になってもデフレから脱却できない危惧がある。

小生の考えでは、量的緩和条件を物価のみならず、物価に影響を与えるもの、特に雇用関係の改善を加味するべきではないか。若干の改良余地は必要であるかもしれないが、完全失業率の水準で将来の給与上昇→物価の上昇を想定することが良いと考えている。3月時点の完全失業率は4.5%に低下しており、これは量的緩和導入後或いはゼロ金利政策導入後で最低水準となっている。労働省の統計上、正社員が減っている現状と過去の4.5%に差はあるものの、完全失業率が一段と低下したある時点で量的緩和解除ができると考えている。小生の試算では完全失業率が4%を下回った段階で長期金利は流動性の罠を脱却して上昇するとの結果を得た。

消費者物価指数の安定的ゼロ%若しくは完全失業率が安定的に4%以下になる時に量的緩和解除を行う。
このような新たなコミットメントを検討する時期に来ていると感じている。


ご大層なタイトルを付けてしまったため、長文になってしまった。難解な内容とならないように配慮したが、ご理解頂けない場合には申し訳ない。また、ご理解頂けたならば幸甚と存ずる。

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イメージ通りだった米雇用統計

市場関係者の多くにとって、米国4月の雇用統計はポジティブ・サプライズとなった。

Bloomber記事『米労働省が6日に発表した4月の雇用統計によると、非農業部門の雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は、前月比 27万4000人増加し、ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミスト予想中央値の17万4000人増を上回った。 3月の雇用者数は速報の同11万人増から14万6000人増に上方修正された。2月も24万3000人増から30万人増に上方修正され、2-3月合わせて合計で9万3000人上方修正された。

実はこのような事態を小生は想定しており、だからこそ、日経平均株価指数の1万1千円割れは拾ったほうが良いと考えていたのである(会社で作成した資料には、4月の数字が良くなる可能性をチャーンと記載してあった本当に)。大してネタもないので、この点を中心に記載して置く。

米国雇用統計における季節調整の罠
4月1日に発表された3月の雇用統計からこの問題は始まった。3月の非農業部門雇用者数は11万人増加と、予想の21万3000人を大きく下回っていた。3月の数字が予想比▲10万3000人であったことに対して、4月の数字が予想比10万人であり、この二つを合わせると、ほぼゼロになることから、3月の数字が下振れした反動で4月の数字が上振れした格好となっている。

この理由について完全に証明することは困難であるが、イースター休暇の特殊要因が影響したと考えている。2005年はイースター休暇が3月になるという特殊な暦になったおり、季節調整において、休日が増加(平日が減少)することは、その月の数字を下振れさせるらしい(自分では確認していません)。そもそも、雇用において平日が多いかどうかは余り関係がない(関係なくなっているという言い方が正しいか)と思われ、このため、3月の数字が下振れし、従来の休日が減少した4月の数字が上振れするという現象が発生したものと考えられる。

3月の米国雇用統計が発表された4月において、米国景気の先行きに懸念を表明していた人々が4月の同数字発表で掌を変えたように、強気に転換する様が感じらる。余り、単月の数字で一喜一憂しない方が良いと思う。


米国雇用統計で想定外だったこと
今回の雇用統計で想定外であったことがある。2月、3月の数字が上方修正されたこともあるが、雇用コストの上昇がそれである。

Bloomberg記事続き『民間部門全体の週平均労働時間は33.9時間。事前予想の33.7時間を上回った。平均時給は16.00ドルと、前月から5セント(0.3%)増加。エコノミストは0.2%増を予想していた。3月も同じく0.3%増だった。4月の平均時給は前年同月比では2.7%増加した。

どうやら、5月3日のFOMC声明文でのインフレ警戒を強めた文面は、これが背景にあったようだ。但し、米国の景況感(特に製造業関係)が悪化していることも当該声明文では指摘されていたため、次回のFOMCで利上げ打ち止めの考えを改めない。


日本株も来週発表のGDPへの期待感から多少買われることを期待している。但し、1万1千500円台でシコっている個人投資家が多いので上値は重いだろう。

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資産のインフレ・ヘッジは必要か?

個人投資家は、最近、株式運用や外貨運用及び不動産投信等の不動産投資に熱心である。これらは何れも、預金や国内債券等の金融商品と対極にある“インフレ・ヘッジ”商品(国内債券等は“デフレ・ヘッジ”商品)と言える。周知の通り、日本国は物価上昇率がマイナスのデフレ状態にある。長期的に見れば、日銀展望レポートによると(政府もほぼ同じ)2006年度にデフレ脱却となるだろうし、2003年3月から新規に発行されている物価連動国債と同期間の長期国債から計算できる10年の期待インフレ率は0.8~0.9%であり、将来のインフレ化が見込まれる状況にある。小生も、この見込みが間違っているとは思えず、資産のインフレ化を行っている。その上で何だが、個人投資家がインフレ・ヘッジに傾斜し過ぎていないかという疑問を持っている。『日本経済』というタイトルに些か違和感を感ずる内容となるが(何時も米国経済も論じている位ですので)、この点について個人的な見解を述べようと思う。


インフレ先行国(米国)の状況
5月3日のFOMCにおいて、米国はFF金利を3%(前回比+0.25%、昨年6月以来8回目)の引き上げを決定。今回のFOMCの声明文で『長期的なインフレ期待は引き続き十分に抑制されている』の文言が抜けているという混乱があったものの、『今回の利上げ決定の後でもなお金融政策スタンスは緩和的にとどまる』との次回の利上げを示唆する文言が封入されていたため、次回6月30日のFOMCでも利上げされるであろう。

Bloombergによると、PIMCOのビル・グロス氏がFF金利の引き上げを3.25~3.50%で打ち止めと主張(以下、当該記事、直ぐにリンク切れとなるため、COPYを行った)。
5月3日(ブルームバーグ):債券ファンド最大手、米PIMCOの投資責任者ビル・グロス氏は3日、米金融当局は政策金利を3.25-3.5%とした時点で利上げを打ち止めとする公算が大きいとの考えを示した。
FOMCはこの日の会合で、FF金利の誘導目標を0.25%引き上げ3%とした。利上げは、2004 年6月から8回連続。「慎重な」ペースでの利上げ方針は、引き続き示した。
グロス氏は、「当局は3.25-3.5%の間で利上げを打ち止めとするだろう」との見方を示した。
当局が、インフレ期待は「十分抑制されている」との内容を声明に追加したことについてグロス氏は、当局の視点が「景気減速に傾いているとみる必要があるだろう。これが、債券相場を若干、押し上げたとみられる」と述べた。
同氏は、欧州債が「最も妙味がある」との考えを示した。

尚、ビル・グロスについてはこちらの本が参考となる。

小生もビル・グロスの考えに賛同し、次回FOMCで利上げが一旦打ち止めとなると考えている。彼のコメントに付け加えるならば、
1.次回で引き締めに転じてから1年。グリーンスパン議長は1年毎に金融政策を転換することが多い
2.9・11同時多発テロによる影響から超金融緩和は実施し、次回の利上げで9・11以前の実質金利となるため
3.住宅バブルは続いているが、時間の問題(タイムラグ)で沈静化が見込める
4.自動車販売が停滞。米国自動車販売はローン付となっており、金利上昇は自動車会社の収益を圧迫
5.NYダウが一時1万割れ寸前となるなど、株価が不安定
等を理由として挙げる。もし、利上げが継続するとするならば、スタグフレーション懸念が強まり、景気よりも物価上昇を抑制することに熱心になるか、現状の景気減速方向からの急激な方向転換するかなどであろうが、可能性としては低いであろう。

異論もある。先週話題となったMスタンレーのレポートによると、FF金利は5.5%に上昇するそうだ。ただ、これについては中国の為替市場開放と、ドルの下落が前提となっている模様で、現状においては言い切れないだろう。

いきなり冒頭文と関係ない論を展開したが、言いたかったことは米国でさえ、好況=インフレ圧力は持続せず、金利(特に長期金利)の上昇圧力がそれ程強くないということである。ちなみに、ビル・グロスの予想が正しいとすれば、FF金利は最低水準から+2.5%、10年国債利回りは同+1.5%と極めて緩慢な金利上昇となる。日本の量的緩和解除が実行された場合も同様の緩慢な長期金利上昇(米国とどう程度上昇に止まるならば、10年国債利回りは2%前後まで)となると考えている。Mスタンレーのレポートのシナリオの場合、円高が想定されるため、日本における緩慢な長期金利上昇のシナリオとは崩れないと考えている。


インフレとデフレのどちらが困るか
小題について、人によって異なることは言うまでもない。
デフレが困る人とは、資産を持たずに現在働いている人で、雇用の不安や賃金の低下圧力を受けている点が理由として挙げられる。インフレが困る人とは、現在働いておらず、年金も貰わず、預貯金を取り崩して老後の生活をしている人で、インフレによる預貯金の資産が目減りする点が理由として挙げられる。ちなみに、年金のみで生活している人は、インフレ、デフレにおいてニュートラルということになる。

前述論は、一つ視点が欠けている。日本の国の財政赤字の問題である。国の財政はデフレでは困る。デフレが持続した場合、その後の増税が苛烈になり、インフレ転換が速やかに進んだ場合、その後の増税がマイルドになると言い換えられるのではないか。年金生活者においては将来の年金圧縮リスクが増大すると読み替えることができるだろう。

前節を踏まえて、前述の論を書き換えるならば、労働および年金による所得のある人はデフレが困り、資産のみで働いている人はインフレが困ると言え、これらのヘッジが必要ということになる。これを個々人に置き換えるならば、現在保有している資産(ストック)にはインフレ・ヘッジが必要であるが、将来得られる給与や年金等のフローはデフレ・ヘッジが必要であるということとなる。世の中の多くの人は、『資産<将来得られる給与や年金』の状況の人が多いため、インフレ・ヘッジを必要とする人或いは、インフレ・ヘッジの必要とされる資産割合が極めて小さいというのが小生の結論である。


小生資産のインフレ・ヘッジの状況
現在のおけるインフレ・ヘッジ資産とデフレ・ヘッジ資産の割合はおよそ50%毎。2年前のインフレ・ヘッジ資産の割合がおよそ25%であることを考慮すると、随分とインフレ・ヘッジを加速させた。但し、金融株を売却し、保有株の大半が電力株であることを考慮すると、インフレ・ヘッジの比率としてはほぼ同程度と考えている。今後の資産運用においてこれ以上、インフレ・ヘッジ資産を増加させるつもりはない。来年、不動産(マンション)を購入するためである。今考えていることは、長期金利が上昇した段階(量的緩和解除後)で、保有の電力株→長期国債への入替でインフレ・ヘッジ資産を圧縮させることである。

尚、マンション購入のための借入は長期固定借入にするつもりである。今後のインフレはマイルドであろうと考えているが、どうしてもスタグフレーション・リスクを排除できないことがその理由。

FP(フィナンシャル・プランナー)で我こそはと考える方がいらっしゃれば、小生のリスク管理への異論をお願い致します。

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