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日銀が巡らせた陰謀<記者に捧げるシリーズ>

  日銀は7月にゼロ金利政策を解除したが、それに際して日銀がある陰謀を巡らせたと考えて来た。8月25日に発表された消費者物価指数の結果(総務省統計局)、物価上昇率が大幅な下方修正されたことで、日銀が陰謀を巡らせたことは確信へと変わった。日銀の中央銀行としての信頼を揺るがすものであり、ここに表明するものである。

□ 日銀の巡らせた陰謀?

  福井日銀総裁が村上ファンドへの拠出を行っていることが判明し、6月から7月にかけて大騒動となった。日銀の巡らせた陰謀とは、この騒動を利用して或いは議論の分散を図るために、本来利上げ時期ではないにも関わらずゼロ金利政策を解除したという疑いである。日本経済はデフレ脱却するか否かの微妙な時期にあることを考慮すると、利上げ時期が後ズレすることは許される所であるが、利上げ時期が前ズレすることは避けなければならない状況にあった。日銀が国民の信頼を裏切ったとするならば、総裁は万死に値する。村上ファンド問題よりも重大な事であり、今後の追及と日銀による説明を期待する。

□ 物価上昇から判断すると7月時点においてデフレは継続していた

  8月25日、消費者物価指数が2000年基準から2005年基準に改訂され、この結果2006年7月の当該コア指数(生鮮食品を除く)は前年同月比+0.2%(改訂前の前月・同+0.6%)と大幅下方修正される結果となった。ゼロ金利政策が解除された後の政策金利(無担保コール翌日物の誘導水準)は0.25%であるため、日銀は実質金利( = 政策金利 - 物価上昇率 )を+0.05%とプラス化していたことになる。前月に消費者物価指数の発表時点において、実質金利は▲0.35%になると見受けられていたことを考慮すると、イメージが全く違うのではないか。

  同時に発表された他の物価指数にはもっと大きな問題を孕んでいる。8月東京都区部消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比+0.0%と全くインフレを心配する状況とはなっていないというよりも、デフレを心配する状況となっている。更に、7月全国消費者物価指数において、食品(酒類を除く)及びエネルギーを除く指数(米国方式のコア指数)は前年同月比▲0.3%となっている。この数字は日本経済が今未だデフレ真っ只中に居ることを示している。

□ 消費者物価指数の事前予想+0.5%は日銀によるミスリードによるもの

  7月消費者物価指数(生鮮食品を除く)の事前予想は+0.5%で、結果+0.2%よりも大幅に高かった。この議論をリードしていたのは、日銀企画局が出したレポートである。前回の基準改定(1995年→2000年基準)時に消費者物価指数は▲0.26%の下方シフトしたことに対して、当該指数の上方バイアスが縮小していることを示すことで、今回の基準改定(2000年→2005年基準)時の下方シフトが前回を下回るとのイメージ感を植え付けることに成功した。多くのエコノミストは日銀のミスリードに促されるように下方シフトの幅を▲0.2%程度と予想した。

  日銀は何故、下方シフトの幅を小さく見せる必要があったのであろうか。それは量的緩和政策を解除するための条件にあったと思われる。2003年10月10日に日銀が発表したその第二の条件は『第2に、消費者物価指数の前年比上昇率が、先行き再びマイナスとなると見込まれないことが必要である。(中略)具体的には、政策委員の多くが、見通し期間において、消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%を超える見通しを有していることが必要である』。

  先行きにマイナスとなることが見込めないということにおいて、基準改定による下方シフトが大きいとそれだけ、大きなプラス乖離が必要となり、量的緩和政策の解除の障害となるためである。

  結果的には、量的緩和政策解除に先んじて出されたこのレポートが間違っていたため、量的緩和政策解除時期もゼロ金利政策解除時期も前倒しされることに成功した。

  日銀は未だに、政策金利の上昇を勝ち、政策金利の低下を負けと呼ぶらしい。国民のためではなく、自らの自己満足のために政策金利を動かしているとすれば大きな問題である。日銀は日銀法により独立性が保証されている。しかし、それは国民に対する充分な説明を行った上で金融政策を適切に運営されていることが前提と考えている。国民を欺き、金融政策を変更したとするならば、その責任者である福井日銀総裁は辞任すべきである。

□ 消費者物価指数に対する政治家の反応と予想される日銀の言い訳

  今回の消費者物価指数の発表を受け、与謝野経済財政・金融大臣は以下のコメントを行っている(Reuters報道より)。

『(内閣府が基調判断をみるうえで重視してきた石油製品、その他特殊要因除く消費者物価指数がマイナスとなったことに関して)問題はトレンドがどうなっているかだ。物価はわずかながら上昇方向に動いていることが読み取れる。前の基準と比べてどうかは議論の対象ではない。(デフレ脱却判断に関しては)デフレ脱却は視野に入っているが、来月中旬まで専門家がチェックして総合的に判断したい。(月例経済報告では)消費者物価だけでなくあらゆる経済指標を分析して、日本経済が正常な道をたどっているかどうか総合的な判断をするべきだ。(生鮮食品や石油製品などを除いて物価の基調を判断する手法に対して)消費者がモノを買うとき、石油製品や生鮮食品を除いて購買行動を行うことはない。消費者とのインターフェースでは、石油製品も生鮮食品も消費者物価の概念に入ると思っている。ボラティリティを除いて考えるのが本当に正しいのか。生産性向上や競争激化などによっても物価は下がる。すべての要因を考えて、物価のすう勢を見出すことが物価を考えるときに大事だ。』

と完全に日銀を擁護している。それは、小泉退任を9月に控え、政府としては9月にデフレ脱却宣言をしたいためと考えられる。また、邪推な見方をすれば、日銀にその先鞭ををつけさせるためにゼロ金利政策解除を行わせ、その条件としてデフレ脱却宣言を9月までに必ず行うこととの密約があったとすれば大問題である。

一方、日銀サイドの言い訳を予想すると、消費者物価指数については総務省の専管事項であるため、予想できなかったという類のものではないだろうか。しかし、そのようなことも正確に計算できないとすれば、日銀の政策を担う能力に対する疑問が立つと考えられないか。

□ 日銀法改正の必要性

  このようなことを今後、避けるために小生は日銀法を変更する必要があると考えている。日銀法における金融政策の理念は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」としている。物価の安定には勿論デフレの回避も含まれるが、デフレ時には金融政策が効果を発揮し難い状況(流動性の罠)に陥るため、金融政策としては無策であることを言い訳として、インフレを回避すれば良いとの考えに立ち過ぎているのではないか。

ちなみに米国においては、『物価の安定』、『雇用の最大化』、『moderate(穏やかな変化)な長期金利』と三つの柱が置かれている(IMFによる「金融政策の透明性基準」より)。日本においても、雇用或いは景気の配慮にウェートを置く理念に変更する必要性を強く感じた。

最近の日銀は大きな問題を抱えているような気がしたため、問題提起として記載致しました。これを契機に、国民の皆様が大きな問題意識を持って頂くことを強く望みます。

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祝100回目・今後の日銀金融政策を占う

2004年7月11日に当該記載(第一回)を開始してから、2年を経過し、この度100回目の記載を行うこととなった。『100回目記念という記載であるため、それを飾るに相応しい内容を』と考えていた訳ではないが、前回の記載から2ヶ月以上が経過した。そのため、一日のアクセス件数が80から20程度に激減した。その数少ない読者のために、今回の記載を行おうと思う。

テーマは小生の記載の中で最も人気がある?と思われる日銀金融政策について、現状の材料整理を試みた。

□ 日銀のゼロ金利解除は正しかったか、否か

7月14日に日銀はゼロ金利政策を解除した(リンク=PDF)。これにより、日本の政策金利(無担保コール翌日物の誘導目標)は、2001年3月18日(量的緩和政策導入が翌3月19日)以来、5年4ヶ月振りにゼロではなくなった。これが正しいか否かについて、“総じて正しい”と考えている。

その理由は、単純で世論が認めているからである。先月、日経新聞社が日銀のゼロ金利解除について調査を行った所、3分の1超がゼロ金利解除が遅過ぎるとし、適正とする人間と合わせ、全体の6割が早過ぎるとは考えていない(早過ぎるとしては2割少し)ことが判明している。詳細なヒアリングではないため、感情論に類する面もあるだろうが、これら専門家以外の人々の判断が結局、正しいように思う。

我々専門家は、経済情勢がどうだかな云々と細かな点に捉われて本質論を見余ることがある。日銀のゼロ金利解除が正しいか否かは、物価安定(デフレもインフレも避ける)を目指す上で金利を上げた方が良いかどうかという点に尽きる。ガソリン価格が湾岸戦争以来の1リットル当たり140円台に上昇していること等、生活実感に近い所でインフレの芽を感じてのことであろう。

正しい、“総じて”と完全に正しいと容認していない。利上げ水準は果たして0.25%が正解か否かには疑問を感じているからである。

□ インフレの現状について

日銀は、経済・物価情勢の展望(展望レポート)を毎年4月と10月の年2回発表している。2006年4月時点の政策委員の予想2006年度は、実質GDP+2.1~+3.0%、国内企業物価指数+1.4~+1.8%、消費者物価指数(除く生鮮食品)+0.6~+0.6%。このうち、物価関連の国内企業物価指数と消費者物価指数(除く生鮮食品)について確認する。

まず、国内企業物価指数について、7月の数字(速報)(リンク=PDF)は前年同月比+3.4%であり、前述の数字のレンジ上限+3.0%を大幅に上回っている。国内企業物価指数という名称に馴染みがない人に対して、旧の卸売物価指数であると聞けばイメージできるであろう(詳細は当該リンクにて)。国内企業物価指数は、企業間の取引価格の平均であるため、消費者物価指数へ全てが波及する訳ではない。消費者物価指数への波及を見る上では、当該における需要段階別指数の最終財の推移を確認すべきであろう。7月の最終財は前年同月比+0.4%、その内の消費財は前年同月比+0.5%。これらは展望レポート発表時点(3月の数字)の数字である最終財+0.9%、消費財+1.4%から物価上昇率が減速している。以上を踏まえると、消費者物価指数の上昇圧力はそれ程大きいものではないことになる。しかし、国内企業物価指数の上昇が将来に波及するということを考慮すると、先行きのインフレへの不安が台頭していると考えてよいだろう。

重要性がさらに高い消費者物価指数(除く生鮮食品)について、6月の数字(リンク=PDF)は前年同月比+0.6%で、前述の展望レポートの数字と並んでいる。国内企業物価指数の先行きに上昇圧力があることを考慮すると、消費者物価指数への上昇圧力があることは確かである。また、年度末時点の+0.5%から年央(9月)を前に予想水準に達していることを考慮すると、少なくとも4月時点で日銀が想定していたよりも早いスピードで物価上昇が進展していると考えていることだろう。

消費者物価指数の中身を吟味すると、上昇の要因は光熱水道費と自動車関係費の寄与が大きい。具体的な品目で言うと、灯油やガソリンの上昇が影響として大きい。原油価格はNY原油先物市場で7月に史上最高値の78ドル/バレルを付け、現在もこの水準からほとんど下がっていない。石油製品である灯油やガソリンの上昇は持続しており、消費者物価指数の上昇圧力は持続している。

以上を踏まえると、ゼロ金利政策解除は妥当と考えている。

□ 日銀の利上げ幅は0.25%で良かったのか

結論から言うと、利上げ幅の0.25%は不要だったと考えている。幅はもう少し小さくても良かったのではないか。

前述の通り、物価上昇率の上昇圧力は増大している。しかし、上昇のテンポは極めて鈍いと考えている。消費者物価上昇率の加速が+0.5%から+0.6%であったことから、取り合えず0.1%に引き上げるという選択肢があったのではないか。8月の金融政策決定会合で日銀は金利を据え置いた(リンク=PDF)。この点を踏まえると、少なくとも7月に0.1%、8月に0.25%(+0.15%)へと二段階に分けることは可能であったと思われる。その方が市場の変動を抑える効果があったためである。

利上げ幅を抑えた方が良かったもう一つの理由として、消費者物価指数の基準改定(リンク=PDF)がある。 現在消費者物価指数は2000年を基準年としてその年の平均を100として指数を計算し、発表しているが、基準年を2005年へ変更する等の改訂を行うこととなっている。その改訂が8月に行われる。消費者物価指数は、上方バイアスという特徴があり、基準年から経過すればする程、物価指数が高めに出る傾向がある。基準改定が行われると、この上方バイアスが剥落するため、今回の改訂で▲0.2~▲0.3%の下方修正となるため、6月の数値が+0.3~+0.4%へ低下することとなる。この改訂の結果、実質金利(=政策金利-消費者物価指数)がゼロ%近辺に急上昇(現在は▲0.25%)する可能性がある。日銀は、シュミレーションの結果、そうはならない前提で動いていると思われるが、万一、ゼロ近辺に低下した場合、本邦株式市場の急落や円ドルレートの円高を招く恐れがあると考えていたためである。

また、基準改定に際して、新たに生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数が発表となる。当該指標は恐らくゼロ近傍にあると思われ、この指標がマイナスに陥った場合には日銀の金融政策が早過ぎたとの批判を受ける可能性は高い。ちなみに、米国が金融政策で重視する消費者物価指数は食料とエネルギーを除く数値である。

結果は数ヵ月後に判明するが、個人的には利上げを刻むべきであったと考えている。但し、日銀がそうしなかった理由はゼロ金利解除の説明責任でも大変であるのに、市場が利上げ幅は0.25%と考えていることを敢えて藪の中を突付く必要はないということだったと思われる。

□ 日銀が抱える問題点

日銀が抱える問題点とは、誰もが指摘していることであるが、福井日銀総裁が村上ファンドに出資していたことである。村上ファンドの水準を見る限り、福井日銀総裁が就任した時には元本を割り込んでいた為、売却を躊躇ったというようなことに過ぎず、意図的なものではないと思う。しかし、小生は福井日銀総裁は辞めるべきだと考える。それは、直後の世論調査で七割の人間が総裁は辞めるべきだと指摘したことにある。日銀は政治家による指摘で辞める必要はないが、世論に反する状況で職にい続けるべきではない。しかし、残念ながら8月11日の福井日銀総裁の記者会見で「課されている職責を果たしていきたいという決意を申し上げているが、当然、任期の中で果たさなければいけない職責を初めから意識している」と発言したそうである。残念。

日銀は政府に対して大きな借りを作ったと思われる。このため、日銀は国債の買切オペの減額には動き難くなった可能性がある。今週、海外調査機関のレポートでオペ減額を示唆したそうであるが、現実的には難しいのではないか。前回のゼロ金利政策が導入された時(1999年2月)の当該オペの金額は月間4千億円であった。それが現在は1兆2千億円まで、量的緩和政策の余波で拡大し、そのままの状態で放置されている。長期国債市場を歪めているという点から当該額は減額するべきだと考えている。7月のマネーサプライ(M2+CD)の伸び率が前年同月比+0.5%と13年振りの低水準となっているため、成長通貨の供給という面から当該オペの減額を行い難くなっている。福井総裁が居る為に当該減額ができないとすれば大いに問題であると考えている。

□ 今後の金融政策について

次回の追加利上げを2007年1-3月と想定している。債券市場のストラテジストは、米国景気減速およびそれに伴う本邦成長率の鈍化のため、年度内に利上げがないという意見もあるが、小生は彼らが景気の実力を過小評価していると考えている。それは次の機会に記載することとしよう。

長い間記載していなかったため、思いの他に時間がかかりました。それに色々な問題を一度に盛り込んだ為、結論が浮いた格好になっています。現時点で小生が持っている問題意識の列挙と受け止めて頂ければ幸いと存じます。希少的な当該サイトの読者の方、不定期な更新ですが、今後とも宜しくご愛顧願います。

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